1.内定者フォローの「現状」
(1)内定者フォローの位置付け・重要性が高くなってきた
●採用スケジュールの後ろ倒しで、内定者フォローを重視する企業が増加
近年、新卒採用活動の中で、内定者フォローの占める位置付け、重要性が高くなっている。マイナビが実施した「2016年卒マイナビ大学生就職内定率調査」の結果を見ると、10月の内定式を直前に控えた9月末の内々定率は79.9%と、約8割の学生が内定を保有している。また、内定保有者のうち39.5%は、複数の内々定を保有している。しかし、引き続き就職活動を続ける学生も、相当数いるようだ。当然のことながら優秀な学生は複数の企業から内定を得ることになるが、その分、内定辞退も多くなる。そこで多くの企業が、内定辞退を防止するために内定者フォローを重要視するようになった。
また、内定辞退が増えた理由の一つとして、学生の会社に対する理解不足が挙げられる。経団連が「採用選考に関する企業の倫理憲章」を見直したことで、採用スケジュールが後ろ倒しとなり、就職サイトがオープンしてから内定を得るまでの時期が短縮されることになった。そのため、自己分析が不十分で、企業に関する理解も曖昧なまま選考を受ける学生が増加。たとえ内定を得たとしても、その後で不安や迷いが生じて、内定を辞退するケースが増えているのだ。
ここであらためて、企業の採用活動の状況を見てみよう。2015年卒までの採用活動は、学部3年、修士1年の12月に採用情報が公開され、翌年4月から選考開始というスケジュールだった。それが2016年卒では、採用情報の公開は3月、採用選考の開始は8月へと繰り下げとなり、学生・企業双方に大きな混乱と不満が生じる結果となった。そのような事態を受けて、経団連は2017年卒では採用広報は3月のまま、採用選考を2ヵ月早めて6月に変更したが、状況の改善は難しいだろう。倫理憲章は経団連傘下企業を対象としたものであり、外資系企業や新興企業など、倫理憲章のスケジュールに則った採用活動を行う企業ばかりではないからだ。
さらに、景気回復から企業の採用意欲が拡大していることも大きい。リクルートワークス研究所が毎年発表している「ワークス大卒求人倍率調査」によると、2016年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.73倍と、前年の1.61倍より0.12ポイント上昇し、リーマンショック前の好況時に近づきつつある。学生にしてみれば、思った以上に内定が取れる状況となっている一方、多くの求人がある中、企業理解や自己分析が十分でないまま早期に就職活動を終えてしまうことへの戸惑いや不安は増大している。
(2)内定者フォローによって、学生の抱える「不安」を解消する
●入社に対して前向きな気持ちと自信を持ってもらい、採用ミスマッチを防ぐ
内定から入社するまでの期間、学生の気持ちは非常に不安定な状況に置かれる。特に、複数の企業から内定を得ている場合は、1社に絞り込んでいく過程で大いに悩むことになる。就職とはある意味、結婚と同じ類のものであるからだ。相手(会社)を決めるに当たって、周囲からの雑音は多く、意思決定が非常に難しいため、思い悩むことが多い。「内定ブルー」と言われるゆえんである。
また、入社式も結婚式と同じと言えるだろう。自分のパートナーは本当にこの人でいいのかと不安になっている人とそうでない人とでは、その後の人生のあり方、お互いの関わり方が大きく違ってくる。だからこそ、入社までに、不安を解消する必要があるのだ。
近年は、新卒者の3割が入社から3年以内に辞めていくと言われる。早期に離職をした若手社員の理由を見ると、会社や仕事、人間関係に不満を持っていたことがわかるが、さらに掘り下げていくと、実は入社前から「不安」を持っていた人が少なくない。入社前の「不安」を解消させるために、どれだけ丁寧に内定者に対してフォローを行い、学生の気持ちを自社に向けさせ、入社への意思を固めさせた上で、スタートラインに立ってもらうことができるか。これが、採用目標数を達成するための重要なカギとなる。売り手市場の今、優秀な内定者を確保・維持するための施策としての内定者フォローが、重要度を増しているのである。